家族信託の終了について

家族信託は、ご自分の財産の管理・処分を信頼する受託者に託し、受託者が一定の目的に従って財産を管理する制度です。近年、高齢者や障がい者のための財産管理や、アパート経営、会社経営などの事業承継等、様々な場面で活用されています。

信託は、契約で定められた終了自由の発生や関係者の合意、目的の達成などによって終了し、信託が終了すると、信託された財産は契約や法律で定められた者に承継されます。

信託の終了は、単に財産の管理が終了するというだけではなく、それまで管理していた財産の「承継」を行うための大切な手続きです。

この記事では、家族信託の「終了」について、その基本的な考え方や手続きの方法、注意点などについて解説いたします。

家族信託の「終了」とは

信託とは、

  1. 契約や遺言によって、
  2. 委託者が一定の目的のもと、自身の財産を受託者に託し、
  3. 受託者が信託財産を管理・処分して
  4. 受益者がその財産から利益を受ける

という制度ですが、信託は永遠に続くわけではなく、契約によって定められた事由の発生等によって、終了を迎えます。

信託が終了すると、受託者の管理事務は終了して清算受託者が信託を清算し、残った財産は契約で定められた帰属権利者(残余財産受益者)に帰属します。

家族信託が終了する主な事由

家族信託の終了事由は、信託契約や信託法によって定められています。代表的なものは以下のとおりです。

①契約で定められた終了事由の発生

  • 「委託者が死亡したとき」
  • 「委託者及び委託者の配偶者が死亡したとき」
  • 「委託者が死亡したときから一か月後」
  • 「信託財産である不動産を売却した時」

など。

②関係者の合意による終了

  • 委託者、受託者の状況や心情に変化があったため、信託契約の規定に従い委託者と受託者の合意で信託を終了

③信託財産の消滅

  • 信託していた金銭が尽きてしまった

など。

④法律の定めによる終了(信託法第163条)

  • 信託の目的を達成した、または達成することができなくなった
  • 受託者不在のまま一年が過ぎた

など。


以上が、家族信託の代表的な終了事由ですが、このように抽象的な事由を並べてもイメージを持ちづらいかと思いますので、以下にいくつか具体例を挙げてみます。

具体例① 委託者死亡による終了

一人暮らしの高齢の母の財産管理のために信託を設定。母が死亡したら信託終了。

信託契約の内容

信託の終了事由 母(委託者兼受益者)の死亡
信託財産 マンション、預金
帰属権利者 マンションは長女、預金は次女

母(委託者兼受益者)の死亡

信託終了

マンションは長女、預金は次女に帰属

具体例② 信託財産の不動産を売却した時

病気であまり動くことができない委託者(妻)所有の売却に手間と時間がかかりそうな不動産を、妻に代わって受託者(夫)が行うための信託を設定。不動産を売却した時点で信託終了。

信託契約の内容

信託の終了事由 不動産を売却したとき
信託財産 土地、建物
委託者兼受益者:妻 受託者:夫
帰属権利者 受益者

不動産を売却

信託終了

売却によって得た金銭は受益者である妻に帰属

具体例③ 状況の変化による合意終了

高齢の父の財産管理のために信託を設定。

信託契約の内容

信託の終了事由 委託者、受託者、受益者の合意
信託財産 土地、建物、預金
委託者兼受益者:父 受託者:長男
帰属権利者 受益者

受託者が重い病気にかかってしまったため財産管理を続けることができなくなった

父(委託者兼受益者)、長男(受託者)の合意で信託を終了することに合意

信託終了

信託財産は受益者である父に帰属

具体例④ 受託者不在による終了

高齢の母の財産管理のために信託を設定。

信託契約の内容

信託の終了事由 委託者(母)の死亡
信託財産 土地、建物、預金
委託者兼受益者:母 受託者:長男
帰属権利者 受益者(母死亡で信託が終了した場合は長男)

母(委託者)の存命中に長男(受託者)が死亡。

後任の受託者を信託契約で定めていなかった。

他に受託者になれる親族がいなかったため、一年間受託者が不存在。

信託終了

清算受託者を選任(委託者と受益者 or 裁判所による選任)

信託財産は受益者である母に帰属

※受託者がいない状態が一年続くと信託は終了するため、注意が必要です。

信託終了後に必要な手続き

信託が終了すると、清算受託者(通常は信託終了時の受託者)が信託を清算し、残った信託財産を帰属権利者に引き渡します。不動産については登記申請、預貯金や有価証券については名義変更などの手続きを行います。

・帰属権利者の確定

信託契約の内容を確認し、残余財産の帰属先を特定します。帰属権利者の指定がない、帰属権利者として指定されている人が存在しない場合は、信託法の規定により委託者の相続人等が帰属権利者となります。

・債権債務の清算

信託財産ついて債権債務があれば、それらの回収や弁済等を行います。例えば、信託口口座の解約や、信託財産から支払うこととされていた信託終了前の医療費の支払いなどがこれにあたります。

・信託財産の引渡し

清算受託者は、信託終了時に残っている信託財産を帰属権利者に引き渡します。不動産については帰属権利者への名義変更(登記申請)を行う必要があります。名義変更を行わないと、不動産の名義は受託者のままで、その状態では、帰属権利者は売却や担保設定等を行うことができません。

・税務申告

信託終了に伴って、相続税、贈与税、譲渡所得税などの課税が生じることがありますので、必要に応じて申告を行います。

家族信託終了時を見据えた信託設定時の注意点

ここまで述べたように、家族信託の終了はただ単に財産管理が終了するというだけではなく、信託を清算し財産の承継を行うための大切なプロセスです。信託終了時の手続をスムーズに行うためには信託設定時の配慮も重要で、以下に、終了を見据えた、設定時に押さえておくべきポイントを挙げていきます。

信託の終了事由を明記する

どういったことが発生すると信託が終了するのかを信託契約書に明記します。

具体例

  • 委託者Aが死亡したとき
  • 委託者A及びAの妻Bが死亡した時

(このように定めた場合は、AまたはBどちらが先に死亡しても

信託は終了せず、AB両名が死亡した時に信託が終了します。)

契約書に「信託終了時の残余財産の帰属先」を明記する

信託終了時に誰にどの財産をどういった割合で帰属させるかを信託契約書に明記します。また、終了時に帰属権利者が死亡していた場合に備えて、予備的な帰属権利者も定めておくと安心です。

具体例

帰属権利者は長男Aとする。

信託終了時に長男Aが死亡していた場合は、長男Aの子Bに帰属させる。

税務面の検討

終了のタイミングや帰属権利者の定め方など設定時の契約内容によっては、相続税の控除や特例が受けられない、贈与税が課税される、譲渡所得が発生するなど、予期せぬ課税が生じる可能性があります。そういったことを避けるためには、税務面を考慮した信託設定時の契約内容の検討が大切です。

不動産に漏れがないよう注意

これは家族信託に限らず、相続登記全般についての注意点でもありますが、財産を承継する手続きにおいては対象不動産に漏れがないよう気を付ける必要があります。

せっかく信託をして財産管理を行い、信託が終了して不動産が帰属権利者へ帰属しても、信託した不動産に漏れがあると、その帰属権利者は遺産分割協議等の委託者の相続人の関与なしには帰属した不動産を売却することができません。

例えば、自宅の土地と建物を信託していた場合に、自宅前の道路の共有持分を見逃して信託していなかったり、マンションの集会室やポンプ室などの共用部分の持分を共有していることに気づいていなかったりなどして、信託していなかったケースです。

不動産を売却するときには、そういった道路持分や共用部分の持分も一緒に売却することになり、それら抜きで家と敷地だけ、マンションの専有部分と敷地の持分だけといった形では売却することができません。

もしそういった共有持分を信託していなければ、信託終了時にその持分は帰属権利者へ帰属せず、委託者に相続が発生していれば、遺言がない場合はその持分は委託者の相続財産として遺産分割の対象財産となるため、持分を承継するためには遺産分割協議を行ってその持分を誰が取得するのかを決めなければならず、相続人の中に協力的ではない人がいると、手続きがスムーズに進まなくなってしまう可能性があります。

関係者の判断能力

信託終了時に関係者の判断能力が失われていると、場合によっては成年後見人の選任が必要になり、終了の手続きに時間がかかってしまう可能性があります。また、成年後見人は、本人の利益を最優先しなければならないため、関係者が合意による信託の終了を望んでいたとしても、必ずしも成年後見人が終了に合意するとは限りませんし、後見人が判断に悩むようなケースも考えられます。

家族信託の終了は、大切な財産を承継するための重要なプロセスで、終了事由や財産の帰属先、手続きの流れ等のポイントを正確に理解した上で手続きを進める必要があります。また、信託設定時に終了までを見据えた設計を行うことが、予期せぬトラブルや課税を未然に防ぎ、スムーズな財産承継を実現させる鍵となります。
大切な財産の確実な承継のために、家族信託の終了の際には専門家へご相談されることをお勧めします。

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