家族信託は、高齢者や障がい者のための財産管理や円滑な財産承継を行うことができる制度として、近年、注目されています。成年後見制度や遺言だけでは実現することができない柔軟な財産の管理・承継を実現することができ、特に管理対象財産に不動産が含まれる場合に多く活用されています。
家族信託の利用においては、「信託を始めるとき」への関心が高い傾向にありますが、円滑な財産承継を実現するためには「信託が終わるとき」の手続きもとても大切で、なかでも、信託財産に不動産が含まれる場合に必要となる「信託終了の登記」を行わないままでいると、登記を難しくする様々な問題が発生することが考えられます。
本記事では、信託財産に不動産が含まれる家族信託が終了した場合に必要となる「信託終了の登記」を行わなかった場合の問題点について、制度の基本や注意点を踏まえた上で解説します。
家族信託の終了とは
家族信託の始まりから終わりは、以下のような流れになります。
①信託の内容を決定し、契約(または遺言。以下、省略。)により信託開始
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②信託する財産を委託者から受託者へ移転(不動産については信託の登記を申請)
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③受託者による財産管理
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④信託の終了
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⑤信託の清算
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⑥財産の承継(不動産については信託終了の登記を申請)
信託終了の登記は、この流れの締めくくりである⑥財産の承継を確実に行うための大切な手続きです。信託による管理が終了した不動産は、この手続きによって、信託契約や信託法で定められた人に登記名義が引き継がれます。
信託が終了しても登記を行わないままでいると、信託した不動産の名義は受託者のままということになってしまい、後述のような問題が発生してしまう可能性があります。
「信託終了の登記」と「相続登記」の違い
家族信託は、委託者や受益者が死亡した場合に終了するケースが多く、相続登記も被相続人の死亡に起因するため、「信託終了の登記」と「相続登記」は一見、同じようなものにも思えますが、信託終了の登記と相続登記は、法的に全く異なる性質の手続きです。
信託すると財産の所有権は委託者から受託者に移転し、信託した財産は委託者の相続財産に含まれなくなるため、信託終了時の残余財産には遺言の効力が及ばず、また、遺産分割の対象にもなりません。そのため、信託の残余財産である不動産については、相続登記ではなく、信託終了の登記を行い、不動産の名義を信託契約で指定された人に引き継ぐことになります。
また、信託は、信託法や信託契約で定められた終了事由、たとえば、
・委託者兼受益者の死亡
・委託者と第二受益者(委託者の配偶者など)の死亡
・委託者と受益者の合意
などが発生することによって終了するため、必ずしも、信託開始前の不動産の登記名義人であった委託者の死亡によって終了するとは限らない点も、相続登記とは大きく異なります。
このように、信託終了の登記も相続登記も、人の死亡を原因として登記名義人を変更する手続きですが、法的な性質が異なるため、登記申請手続も異なります。
信託の終了事由とは
信託の期間は、長期に渡ることが多いですが、永久に続くものではありません。信託には、信託契約や信託法で定められた終了事由があり、それらの事由が発生することで信託は終了し、信託された財産のうち信託終了時に残っていた財産は、信託契約や信託法で定められた人に承継されます。
代表的な信託の終了事由
家族信託でよく見られる終了事由は、次のようなものがあります。
①委託者の死亡
例)委託者兼受益者である父が、子を受託者として財産管理を任せ、父の死亡で信託終了。
②委託者と第二次受益者(配偶者)の死亡
例)委託者兼当初受益者である父が、子を受託者として財産管理を任せ、父死亡後は子が受託者のまま母が受益者となって信託が継続し、母の死亡で信託終了。
③委託者と受託者の合意
例)受託者である子が病気になり信託を続けることが難しくなったため、委託者と受託者の合意により信託終了。
※委託者と受託者の合意で信託を終了することができる信託契約の定めが必要
④契約で定めた期間の経過
例)委託者である父の死亡後、一か月が経過した時に信託終了。
信託終了時に登記申請が必要な理由
上述のとおり、信託終了の登記は相続登記とは異なるものですので、信託が終了したからといって相続登記のように登記申請義務が発生するわけではありません。しかし、信託が終了したにもかかわらず、登記簿上では信託が継続しているように見える状態は、実際の権利関係と登記の内容が一致しておらず、好ましい状態ではありません。
信託終了の登記をしないままでいた場合に起こりうる問題
では、信託終了の登記をしないままにしておくと、どのような問題が起こりうるのでしょうか?
不動産の処分ができない
信託が終了したにもかかわらず、登記簿上では不動産が信託されているままの状態では、信託が終了し不動産を承継した人は、自身の名義で売却や贈与、抵当権の設定などができません。信託終了の登記をしないままでも、信託が終了したことを取引の相手方に知らせなければ、相手方は登記簿を確認し、対象不動産は信託されていて受託者に売買などの権限があると考え、取引自体は出来てしまう可能性はありますが、売却などができたとしても、法律上、税務上の様々なリスクがあります。信託が終了したら、速やかに信託終了の登記を申請し、不動産を承継した人に登記名義を変更した上で、売買などを行いましょう。
権利関係が複雑化していく可能性がある
信託が終了しても信託終了の登記を行わず、登記名義を受託者のままにしておくと、時間が経てば経つほど、信託の関係者に相続などが発生し、権利関係が複雑になっていく可能性があります。たとえば、信託終了後に、不動産を承継した人が亡くなり、その人に複数の相続人がいた場合は、その相続人全員がその不動産の権利を有することになるため、全員が手続きに関与する必要があり、また手続き自体も複雑になります。そのほかにも、信託終了後に受託者が死亡したり判断能力を失ってしまった場合や、委託者の相続人が手続きに関与する必要があるけれどもその相続人のなかに疎遠な人や亡くなった人、海外在住の人などがいたりする場合・・・等、様々なケースが考えられます。
信託終了の登記は速やかに行いましょう
信託終了の登記は、家族信託による財産管理を清算し、大切な財産を次の世代へ承継する大変重要な手続きです。信託終了後、長い間、信託終了の登記をしないままでいると、上述のように当事者や関係者の死亡によって権利関係が複雑化したり、それに伴い事情を把握している関係者がいなくなってしまったり、信託契約書や登記識別情報等の関係書類が見当たらなくなったり・・・など、信託終了の登記を難しくする様々な問題が起きてくる可能性があります。その結果、本来は比較的シンプルに終えられたはずの手続きが簡単には出来なくなり、次の世代にとっての大きな負担となってしまいます。
時が経てば経つほど、信託終了の登記の手間と負担は大きくなっていく可能性がありますので、信託が終了したら登記申請は速やかに行いましょう。


